インタビュー#FILE03(元競輪選手の田代 真太郎さん) | Tキャリあなたのセカンドキャリアを応援します!

“清水区の奇跡! すぱげてぃ屋”を経営する元選手のお話を伺いました!

今回、お話を伺ったのは、元競輪選手の田代 真太郎(たしろ しんたろう)さん。
通算成績150勝、選手生活15年11ヶ月を経て、2015年7月に引退。

現在は、地元を始め全国の皆様に愛され10周年(2023年)を迎えた”すぱげてぃ屋”を静岡市清水区で経営されています。


◆店舗情報「X(エックス)」◆


 

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まずは、選手時代の思い出をお願いします。


突詰めてっていうよりかは、なんでも楽しんでって性格なので、ホント選手時代はストレスなく楽しませていただいた感じですね。 追い込み屋になるっていうよりは、自分でレースを作り、自分がレースを動かしてってスタイルでしたから。下の方でしたけど(笑) なので、選手時代は大きな怪我とかはなく、他の先輩方も言うように楽しかったです。 でも、自分が本命のレースを落とした時はガックリもしましたし、期待してくれたお客様に申し訳ない思いもしましたし、そんな時のヤジは本当に怖った記憶があります。

自分は選手になるまでが大変だったんですよ。7回目でやっと受かったので。 高校の時に群馬に住んでいて自転車を始め、競輪選手になれば自分の頑張り次第で高収入が得られるという話を聞きプロを目指すようになりました。 当時、自転車部に指導に来てくださった方に道場で練習をしている話を伺い、自分も“プロを目指したい”のでと安中道場に入れて頂きました。 道場には井上貴照さん(68期)、小林潤二さん(75期)、亀井さん、大河原さんの兄弟がいらっしゃいました。 道場は師匠に付くと云う形ではなく、皆一緒に練習をしてプロを目指すような形でした。しかし、腰を壊してしまって…
その後、縁あって木部さんに弟子入り出来る事なったのと、父親から「次の5回目を落ちたら俺の管理下でやれよ」って言われていたのもあり、静岡に移り、弟子入りして2回目で受かることが出来ました! なんか選手になるのが最終ゴールみたいな感覚になっていて、合格した時はもう本当に人生最良の喜びでした!


引退後のセカンドキャリアを考え始めた時期は?


先ほども話しましたが選手になる前が長かったから、“もしかしたら選手になれないかもしれない”って常に思っていて、競輪選手になれなかった時は自分には何が出来るのか、何になれるんだろうと考えていましたね。選手になれた時点でも、生涯やり続ける事が出来ると思っていなかったので、やりきったと思えるまでやり、タイミングが来たら違う事をやると決めていましたね。 だから最初は稼いで、なんとか次の職業に向けてと思ってたんですよ。お金を貯めてって♪ 結局、選手時代には一銭も残らなかったですけど(笑)


引退を決意したきっかけは?


選手時代に店を始めていたんですけど、レースで落車をして手の甲を骨折してフライパンが持てなくなってしまって、このままやっていてまた怪我をしたら…と考えるようになりました。でも、苦労して選手になったので最後までやりきりたいという思いと、両親に苦労を掛けて選手になったのに申し訳ないという思いが強くありました。辞めるにしても自分一人だけの問題じゃないと思っていたのですが、母から「もうこれ(競輪)しか出来ないという、カツカツの状態になるまでやるのではなく、体力的にも余力があったり、余力を少しでも残していくのも手だよ」と言われその言葉が響いて、代謝の後押しになりましたし、周りの選手は生活のすべてをかけて100%でレースに臨んでいるのに、自分はダブルワークでやっていることは失礼だなって、代謝を決意しました。それにしても、1年か1年半後にはクビになっていたと思うですけど・・・

セカンドキャリアを飲食店に決めたのは?


元々料理が好きで好きな事が職業に出来たらなぁ~喫茶店が出来たら良いなぁと思っていました。 偶然入ったここの“すぱげてぃ屋”のスパゲティが美味しくて、このスパゲッティを喫茶店で出せたら良いなぁって。 でも、知人に「喫茶店だけでは食べていけないよ」との話を伺い、喫茶店だけではやっていけないけど、ここのスパゲッティを同じように作りたい!自分の店を持ちたい!と思い、初代の方に「選手をやめたら教えて頂いてもいいですか」とお話したところ「いつでもいいよ。でも選手としてやり切ったと思えるまでやるんだよ」と言われ、いつかどんな形かは分からいけれど、この店の味を引き継ごうと決めました。

どんな経緯でお店を始めましたか?


賞金がどんどん下がって、同じ様に走っていても、どんどん稼ぎが下がっていく、1年ごとに下がっていくって時に先々代から「真太郎さん、いま選手の方はどうですか?4代目が店を辞めようとしてますけど。今、そっくりお店が空きますけど」って連絡をもらって、やり方によっては選手も店も出来るかもしれない!ダブルワークで収入がふえるならって、安易だったかもしれないけど始めましたね。


開店後のご苦労は?


元々あるお店で知名度もあるし、自分が初めて考えるメニューではないので先代達と同じように作りさえすれば、そのままお客もついていてくれて収入は上がっていくかなと思っていました。オープンも話題に上り順調にスタートできました! が、2ヶ月目・3ヶ月目と売上が落ちていき、夜はお客が入らない日々続き、選手を辞めなければ良かったかなとか、初代と同じようにやっているのに…と色々な不安が出てきました。
知人からも「飲食業はこの先が見えないと思ったらスパッと手を引かないと、傷口が広がるだけだよ。飲食業は1~2年しか続かない事はザラだから」と言われましたし。
でも競輪と同じでチャンスを得るのは日頃の研鑽だ!というのは分かっていたので、腐らず初代に味を確認していただきながら、初代を超える味を出したいとの思いで日々研鑽!そのなかで、これならお客様が食べた時に絶対に初代の時のようにお客様がついてくれると思える確信と自信のソースを作ることができました。ですので、お客様が入らないときにこの時間を過ごせたことが、今につながっているので苦労だけど苦労じゃないですよね。この日々がなかったら、元競輪選手が始めた噂だけの店になり潰れていたと思います。 競輪選手になるまでの根性が、ここに活かされたと思います。

”清水区の奇跡”とは


後はお客様に食べて頂けるチャンスが出来れば!というタイミングで、“清水区スパゲティ屋の奇跡”と言われているドラマが起こるんです!!
それは清水エスパルスのチョン・テセ選手が練習に行く時に店の前を通りかかったことから始まりました。 うちの店は駐車場がサッカーコートのペイントで、隣は”イタリア軒”というラーメン店なんです。なのでテセ選手はここの店主たちはサッカー好きなのか?ライバルなのか?と興味を持ってくれ、ご夫婦で寄ってくれたんですよ。お客様もいないこの店に・・・
そしてテセ選手が一口食べて開口一番「美味(うま)!」って言ってくれて、その後週に3~4回は訪れ、時には一人で来店してくれるようになりました。
テセ選手のオーラや雰囲気は通常の方とは違うので、よく店に来てくれるサッカー部の高校生にテセ選手の見た目を説明すると「それは、テセ選手ですよ」と教えてくれたことで、その正体に気づいたんです!
お忍びで来店されている場合もあるから、こちらから話しかけることはしなかったんですが、 領収書を出すタイミングに「領収書の名前は、チョン・テセって書けばいいですか?」と尋ねたことがきっかけで、交流が始まりました。 それ以来、エスパルスの選手とかすごい沢山のお客様を連れてきてくれました。 交流が始まってから1ヶ月ぐらい経ったある日、テセ選手から店を「SNSとかで宣伝をすればいいじゃないですか?」と提案があり、僕そういうの苦手なのでと伝えると、SNSの運用も手伝ってくれることに。 テセ選手が店のTwitterアカウントを作り、管理も手伝ってくれた翌日から多くの客が押し寄せ、「チョン・テセ選手がアカウントを管理するお店」として話題となり、もう知名度がブワーって広がったんですよ。
本当に1日でガラッと変わりました。本当に人生っていうのは、人とのつながりとかでガラッと変わるんだなって実感しました。これを皆は“清水区すぱげてぃ屋の奇跡”と呼ぶようになりました。

やりがいと輝き続ける秘訣は?


混んだら混んだで、忙しくキツかったですね。 でも、行列ができるお店なんていうのは、自分の理想だったし、そこをめがけて2年頑張ってきたし、せっかく来てくれた人達をもう一回来たいと思わせる品を出すしかなかいし、テセ選手が食べて「美味しい」って言ったものをここで出せなかったら、この先はないなと思いました。
時間がかかろうが何しようが、一皿をとにかく完璧に仕上げて、テセ選手と同じものを食べていただこうっていう気持ちに切り替えて。自転車のアマチュア時代に培った根性っていうか、諦めない精神で、とにかく頑張りました!
ミートソースの仕込みって全行程で3日間かかるし、やりだしたらもう5時間、6時間は持っていかれるんです。 それが、お客様が増える事でその頻度も増えてキツイ! けど、具材を炒めて時間をかけて煮ていると野菜の味が変わってくるのと、味付けをすることによって更に味が変わって、”すぱげてぃ屋”のミートソースになる瞬間が来る!それが、もう可愛くて仕方ない。 こういう、やりがいを見つけられたので、6時間の仕込みも苦にならず楽しんでやっています。
お店が流行っても大変なことはあるんだなっていうのも経験させていただきましたし、いろんな面での経験が続けられる秘訣になっています。
ここのスパゲティを”食べたいよ”っていうお客様がいらっしゃるかぎり、作り続けたいっていうのはありますよね。

この仕事の醍醐味は?


とにかく来たお客様に満足していただくことですかね。そして、色々な人と繋がっていくことですね。
清水エスパルスのサポーターや清水エスパルス以外のサポーターの方達(青森から九州まで)が来店してくれる。 特に清水エスパルスのサポーターに支えていただいているのがデカいんですよね。清水エスパルスの選手が来る店だからと、サポーターがお店も応援したいっていう気持ちになっていただいて、ホント温かいと思う。

あとは、著名人の方や芸能人の方とかも結構会わせていただきました。今でもプロ野球の菊池涼介選手(広島カープ)が来店してくれているんですけど、僕、競輪選手になる前は野球の選手になりたいと思ってた時期もあったので、菊池選手が来店する前にTVで見ておこうとプレイを見た時たら、”なんだこの人のプレイ!!”となり一発でファンなりました。そして菊池選手のお兄さんが静岡に住んでいて競輪好きなんですよ。僕、競輪選手だったじゃないですか。なので、馬が合ちゃって、家族ぐるみの付き合いになりました。さっきも電話が掛かってきて「今年もバスケットやるんでお願いします」って、でも前回、あばら折っちゃったから、「今回はノーサンキュで」って(笑)
これかも、いろんな方との出会いや縁を深められる事が醍醐味です。 明日は誰に出会えるかな?、いずれ広瀬すずさんに会いたいな♪♪とか、そのためには常にクオリティを上げていこうという気持ちですね。

お店のおすすめ商品を教えてください


テセ選手が広めてくれたカルボナーラが一番人気!
あとはガーリックミートと僕が一番最初に食べたガーリックが効いたベーコンチーズですかね。
うちの店はとにかくニンニクをすごい使うんで、ニンニク好きな方は、本当にハマるっていうか。
だからたまにあそこの店はカルボナーラにニンニクが入っちゃってるから、”カルボナーラじゃないよ”っていう方もいらっしゃるんですよ。けど、それが”すぱげてぃ屋のカルボナーラなんで。

飲食店経営のおすすめポイント、留意点は?


どの仕事にしてもやっぱ絶対、大変だと思います、ゼロからやるので。
飲食店だけじゃなく自営業はやっぱり自分が一番上っていうか、自分がリスクを負わなきゃならないんですけど、反面、自分のペースで出来たり、自分の考えを優先して出来る事は飲食店のおすすめかな。飲食店は選手に近い部分はありますから。 追うリスクやキツイ部分はもろに自分に乗っかってくるけど、まぁそれもまた選手に近い部分で、自分の考えで行動出来る事はストレスにならなと思います。
留意点は、同じものを提供するっていうことですよね。来るたびに味が違うんじゃ駄目。いつ来ても前回と同じで美味しいというのが理想。
美味しくなる分にはいいと思ってるんで、常に自分がどこか食べに行ったりして勉強をする事が大事ですね。あとは何かしらの体調不良で味が落ちていくのだけは気をつけなきゃね。

自分はコロナで後遺症が出て味覚がなくなったとしても、数値化しているので変わらずに作れる自信はあります!

現役選手、後輩の方々にセカンドキャリアのアドバイスをお願いします。


家族のためにこれだけお金が必要で無理をしてでも収入の面だけの仕事を選ぶのか、それとも、お金は思ったよりもらえないかもしれないですけど、会社員として長く続ける仕事を選ぶのか、いろいろだと思います。それぞれの価値観もあるから一概には言えませんが、セカンドキャリアを続けるには自分に向いた職業が大事なのかな。
だから競輪で出来る限り稼いで貯めた方が、その後の選択肢増えるかな。貯めれなかった僕がいうのもなんですが⁉ その辺は本人たち意思で。

僕はセカンドキャリアをよく選手宿舎で考えていましたが、それも楽しみの一つだったかな。
自分は“何が得意”なのか“何が不得意”なのかを知ることかな。こういう仕事もあるんだ、こういうのもあるんだっていうのは知っていて損はないと思うんだよ。
辞める時のための楽しみじゃないですけど、じっくり考えてください。
僕の話がセカンドキャリアを考えるアスリートの皆さんにとっても、何かしらのきっかけや気づきを感じて頂けたなら幸いです。

インタビューを終えて


競輪選手になるまでの苦労、父親の厳しい言葉など、その道の険しさや喜びが感じられました。
特に、「選手に成れた時は、もう本当に人生最良の喜びでした!」との言葉からは、目標を達成した気持ちが伝わってきました。

「人との縁」を大事にされている田代さん。特に、清水エスパルスのチョン・テセ選手の偶然の出会いや、著名人との交流が、飲食店の成功につながったエピソードは非常に興味深いものでした。 このような偶然や人間関係の重要性が、ビジネスやキャリアにおいて大きな影響を与えることを感じさせられました。また、自身の信念を大切にし、料理のクオリティに対しても妥協せず努力し続ける姿勢が、成功への秘訣と感じました。

次回は、チョン・テセ選手がおススメするニンニクが効いた“カルボナーラ”を是非いただきたいです。ベーコンチーズ、ガーリックミートも見逃せない。想像していたらお腹が空いて来てしまいました・・・、やっぱり飲食店は魅力的ですね。飲食店を長く続けるのは、いろいろな意味で大変だと思いますが末永く続くようTキャリも応援しています。